イタリアの政局混乱が黒田新総裁の足を引っ張る?

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - イタリアの政局混乱が黒田新総裁の足を引っ張る?
Share on Facebook

 退任する日銀の白川総裁の後任は、元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)氏で固まった。黒田氏は積極的な緩和論者として知られている。市場もこれを好感して93円台だった為替は一時94円台まで円安が進んだ。だが翌日には市場に激震が走り、円は一気に91円台まで戻ってしまった。原因はイタリアの総選挙である。
 イタリアの政局が今後どのような展開になるのかは、現時点では予想ができないが、これまで楽観ムードが漂っていた世界市場に対して冷や水を浴びせかける可能性は高くなってきた。日銀総裁の交代で、積極的な緩和路線に舵を切ろうとしていた日本にとって、イタリアの政局が思わぬ落とし穴になるかもしれない。

黒田氏が描く政策運営にイタリア政局が立ちはだかる
 日銀総裁に内定した黒田氏は財務省出身。主に国際局と主税局でキャリアを積み、榊原英資氏の後任として1999年から2003年まで財務官を務めた。現在はアジア開発銀行総裁であり、国際金融に関する豊富な経験を持つ。

 黒田氏はこれまで日銀の消極的な姿勢を批判しており、積極的な金融緩和論者というイメージがある。市場もそれを好感し、黒田氏が総裁に就任するとのニュースが流れると為替市場は一気に円安に振れた。だが黒田氏は、巷のイメージほどは大胆な緩和は行わず、安全運転をするのではないかというのが、多くの市場関係者の見方だ。

 財務省を退いてから時間が経っているとはいえ、出身母体である財務省の意向を無視するわけにはいかないことと、実際に日銀が実施できる政策には限度があるからだ。どちらかというと、緩和論者という黒田氏のイメージを最大限に利用した政策運営が実施される可能性が高い。

 だがその戦略も根底から崩れる可能性が出てきた。イタリアの政局不安と円高の再来である。

 欧州中央銀行(ECB)は2012年9月、債務危機となっているスペインなどの国債を無制限に購入する方針を決定した。これによって欧州債務危機は、根本的な解決にはなっていないものの、一時的に棚上げになったとして、市場では楽観ムードが支配的になってきた。

 2012年後半の欧州市場では、ドイツやフランスの株価が20%以上昇したほか、債務危機の震源地であるスペインやギリシャの株価も軒並み上昇した。日本の株高はアベノミクスによる効果といわれているが、実際のところは、海外投資家の間で欧州危機が一段落したという安心感が広がったことが背景となっている。

イタリアの暴れん坊とコメディアンが緊縮財政を徹底批判
 全世界的に広がった安心感をブチ壊しかねないのが、このイタリアの総選挙である。2月24日と25日に投票が行われたイタリア総選挙では事前の予想を超える大混乱となった。

 イタリアでは、EU主導の緊縮財政に国民の不満が爆発、これまで財政再建を優先し、国際的には信任の厚かったモンティ首相が辞任を表明し、総選挙となっていた。

 当初はモンティ首相率いる中道連合と民主党のベルサーニ書記長率いる中道左派連合の争いになると思われたが、スキャンダルで引退していた「イタリアの暴れん坊」ベルルスコーニ元首相が復活し選挙戦に参戦。さらにコメディアン出身のグリッロ氏が既成政党打破を掲げ「五つ星運動」という新しい政党を樹立したことで大混戦となった。

 開票の結果は、ベルルスコーニ氏とグリッロ氏が躍進。下院ではベルサーニ氏率いる中道左派が票を伸ばしたものの、上下両院で過半数を獲得するのは難しい状況となった。最悪の場合には、再度選挙となる可能性も出てきており、いずれにせよ、これまでの緊縮財政路線が大幅に見直されるのは必至の状況となっている。

円高の再来で日銀原理主義が復活?
 イタリア政局の混乱が続けば、再び欧州危機が市場で叫ばれる可能性が高い。そうなってくると、消極的安全資産である「円」が再び買われやすくなる。
 これまでの円安は、アベノミクスによって金融緩和が拡大するだろうという期待感がその原動力となっていた。黒田氏の総裁就任は、そのイメージ戦略をうまく後押しするはずであった。だがここで円高に逆戻りしてしまうと、そのイメージ戦略が成立しなくなる。

 実は、日銀が安心して買える資産はあまり残っておらず、物理的に量的緩和を拡大する余地は思いのほか少ないというのが実情だ。また黒田氏は外債の購入については否定的な見解を述べており、それが踏襲されれば、さらに購入できる資産は少なくなってくる。

 国際的にリスク回避の動きが高まり円高が進むと仮定すると、その中で2%の物価成長を実現するためには、外債の購入やリスク資産(ETF、REITなど)の購入をより積極的に進めるしか道はなくなってくる。
 最終的には企業の競争力が回復しなければ経済成長と物価成長はありえないという、今までさんざん繰り返してた議論が再燃してくる可能性もある(本誌記事「日銀原理主義の由来」参照)。

 とりあえず「円高にだけは逆戻りしないでくれ」というのが、黒田氏周辺のホンネだろう。

【関連記事】