二期目に入ったオバマ政権。米国の世界戦略が激変する?

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 オバマ政権の二期目が本格的にスタートしようとしている。再選を経てオバマ大統領は政権運営に自信を深めており、2月12日に行われた一般教書では、これまでにない独自色の強い演説を行った。主要閣僚もほぼすべて入れ替わり、オバマ大統領は本格的なリーダーシップを発揮できる環境を整えつつある。

 オバマ大統領とその周辺スタッフは、中東を軸にした従来型安全保障体制の抜本的な改革を目指しているといわれる。米国では現在、シェールオイルの大増産という革命的な事態が進行しており、近い将来、米国はエネルギーを完全自給できるようになる(本誌記事「シェール革命とドル復活」参照)。

 石油という「くびき」から解き放たれた超大国は、安全保障についてフリーハンドの立場を得ることになる。オバマ大統領が描くストーリーが現実のものになれば、国際社会には劇的な変化がもたらされる。日本にとっては、まさに100年に1度の根本的なパラダイム転換を迫る事態となるかもしれないのだ。

ケリー国務長官の就任でイランとは対話路線を重視
 オバマ大統領の構想は、主要閣僚の人事に端的にあらわれている。オバマ大統領は選挙後の人事において、主要閣僚のすべてに自らに近い人物を据えることに成功している。これはオバマ大統領が政権運営に自信を持っていることの表れといえる。

 二期目のオバマ政権において特に重要な役割を担っているのがケリー国務長官である。一期目のオバマ大統領の政権基盤は弱く、思うような人事が実現できなかった。もっとも足かせになったのは民主党の大統領予備選で争ったクリントン氏を国務長官に指名せざるを得なかったことである。
 クリントン長官は夫であるクリントン大統領時代からの人脈が豊富で、国務省内にも大きな派閥を形成している。また政治スタイルはかなり現実路線で、オバマ大統領とは相容れないことも多かった。

 これに対してケリー国務長官は上院の重鎮議員であり、オバマ大統領にとっては先輩格にあたる。ロムニー氏とのテレビ討論会の準備ではロムニー氏役を買って出るほど個人的関係が深い。

 ケリー氏の経歴も異例だ。ケリー氏はベトナム従軍経験があるが、政界入りしてからは反戦活動議員として鳴らしたゴリゴリのリベラル派だ。

 国務長官の指名公聴会でケリー氏は「外交政策とは経済政策である」との自説を展開し、アフガニスタンからの完全撤収に全力をあげる考えを示した。また核開発問題で揺れるイランについては「外交的努力で解決する」方針であることを明らかにしている。ケリー国防長官の発言からは中東に展開している米国の戦線を縮小し、国内問題に多くのリソースを割くべきという基本的な考えが反映されている。

 ケリー国防長官のもうひとつの特徴はワシントンきっての親中国派という顔である。中国のメディアはこぞって親中国派の国務長官が誕生したと取り上げている。日本にとっては非常に気になる点といえる。

イスラエルとは距離を置く国防長官候補のヘーゲル元上院議員
 国防長官に指名されたチャック・ヘーゲル元上院議員も非常にクセのある人物だ。ヘーゲル氏もケリー氏と同じくベトナム戦争の従軍経験があが、へーゲル氏の最大の特徴は、共和党の議員でありながら、イラク戦争に強硬に反対したことである。また米国のイスラエル政策に対しても懐疑的な発言を行い物議を醸したこともある。オバマ大統領とは党が異なるものの、個人的に非常に親しいといわれており、政治的立場も近い。

 指名公聴会でヘーゲル氏はマケイン上院議員など共和党の保守派から激しい攻撃を受けており、軍事委員会でようやく承認にこぎつけた。だが上院本会議での最終決議を妨害され、まだ正式に国防長官に承認されていない状況にある。

 米国の政界においてイスラエル支援を疑問視することはかなり危険なこととされてきた。イスラエルは米国の中東政策の要であり、中東での軍事的緊張が経済的利益になる軍需産業はイスラエル支持を強く主張してきたからである。
 だがワシントンでは若い政策立案者を中心に従来のイスラエル政策を疑問視する声が増えてきており、オバマ大統領もその路線を支持している。イスラエルのネタニヤフ首相は先の米大統領選挙中、公然とロムニー氏支持を表明した。他国のトップが米国の特定候補を支持することは極めて異例であり、イスラエルの危機感が強いことを伺わせる。

 米国の安全保障の中核を担う国防長官に、イスラエルと距離のある人物を据えたことは、オバマ大統領が従来の中東政策を大きく変える可能性があることを示唆している。
 指名公聴会でヘーゲル氏は「中東問題の重要性は強く認識している」としながらも「米国の安全保障政策はアジアにシフトしており、その大きな流れを理解すべきである」として、アジア(つまり中国)・シフトを強く主張した。

財政と税制のプロを財務長官に起用
 財務長官に指名されているジェイコブ・ルー氏はオバマ大統領の首席補佐官である。ルー氏は財政や税制のプロで、クリントン政権で行政管理予算局長を務めたほか、オバマ政権でも行政管理予算局長に就任している。

 行政管理予算局は、日本の財務省と総務省の行政管理局をあわせたような官庁で、予算策定や行政評価について絶大な権限を持っている。日本でいえば典型的な主計局出身の財務官僚ということになる。

 オバマ大統領が重視しているのは徹底的な財政再建。軍事費を大幅に削減して、財政収支を改善させつつ、公共インフラ投資を増額させたい意向だ。

 財務長官には金融政策の舵取りという役割もあり、ウォール街出身者が就任するケースも多い。だがルー氏は一時期シティグループの幹部に在籍したことがあるだけで、基本的にはワシントンの人間だ。議会にも知己が多く、財政再建をめぐる議会対策をいかに重視しているのかがわかる。

 指名公聴会では「強いドルが米経済の成長にとって最大の利益となる」と述べ、長官に就任した場合にはこれを堅持する意向を示した。また法人税率の引き下げをはじめとする、税制改革を優先課題として取り組む考えを示している。

石油の自給がドル高と財政再建、そして米軍の大規模な撤退を可能にする
 ケリー国務長官とヘーゲル国防長官候補、ルー財務長官候補の主張を組み合わせると、オバマ大統領の基本的な世界戦略が見えてくる。中東からの米軍の撤収とアジア(中国)へのシフト、そして財政再建とドル高政策である。
 イランとは対話路線を重視し、イスラエルへの支援は限定的なものとする。アフガニスタンからも完全撤退し、浮いたコストは一般教書演説でも示されたように、国内のインフラ投資に回す。

 オバマ政権はすでに10年間で4500億ドル(約42兆円)という巨額の軍事費削減をスタートさせている。これまで中東には2隻の空母を常駐させていたが、今後は1隻体制とすることを明らかにしている。またアジアに展開している海兵隊も順次その規模を縮小させており、最終的には沖縄からも海兵隊は撤収させる方向性だ。

 これらの大胆な政策を実現できる背景となっているのが、冒頭にも触れた米国の石油自給見通しである。米国がエネルギーを完全自給できるようになると、米国の国際収支は劇的に改善し、世界のマネーが米国に戻ってくる。ドル高と財政再建が実現可用になってくるのだ。
 また石油が自給できるようになると、石油権益という意味での中東の重要性は大きく後退する。東シナ海の制海権維持も、最終的には中東からの海上ルート確保が目的であることを考えると、アジア太平洋における安全保障政策にも影響を及ぼすことになる。

 旧ソ連のような明確な仮想敵国が存在していない今、日本に大量の米軍を常駐させ、アジア太平洋地域の軍事的プレゼンスを維持する必要性は大幅に低下している。
 もし中国と米国の間に一定の合意が得られれば、アジア太平洋地域の安全保障の権限を中国に移譲するという選択肢も決してありえない話ではないのだ。その時には、日米安保は名実共にその役割を終えることになるだろう。
 もしそうなった場合には、日本市場はアジアのリージョナル・マーケットの一つに過ぎなくなり、日本企業をとりまく環境は大きく変わることになる。

無人機によるオペレーションを推進するブレナンCIA長官
 オバマ政権は目に見える形の軍事力は大幅に削減させているが、一方で見えない戦争への備えは拡大させる方針だ。実はオバマ大統領は無人機による秘密作戦を大幅に強化しており、在任中にすでに300件以上の暗殺を実行したといわれる。ブッシュ大統領時代には数十件だったことを考えると、オバマ大統領の無人機を使った作戦数は突出している。

 無人機はそのオペレーションが外部に知られる可能性が小さく、極秘裏に作戦を実行できるという利点がある。また兵士を危険にさらすことがなく、極めて安価なのも特徴のひとつだ。無人機を使った見えない戦争については、人道的な見地から米国内でも反対意見は多い。だがオバマ政権はこのオペレーションを後退させる気はまったくないようである。

 CIA長官に指名されたブレナン氏はCIAのプロパーであり諜報活動一筋の専門家だ。無人機を使った作戦を積極的に推進してきた人物である。オバマ大統領が大統領選挙に出馬する際には安全保障政策のアドバイザーを務めており、オバマ大統領との付き合いも長い。


 オバマ大統領は、大型の装備を必要とする従来型の軍事力を削減し、米国経済を復活させるとともに、その圧倒的な経済力と技術力を背景にした見えない戦力を強化し、米国の新しい安全保障の基礎にしようと考えている。最終的には核兵器の廃絶を打ち出すことで、北朝鮮やイランへの核兵器拡散を骨抜きにし、米国の軍事的プレゼンスを維持するというウルトラCも準備しているとさえいわれている。

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