シェール革命とドル復活

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 世界経済が大きな地殻変動を起こしつつある。安価なシェールガスの開発が急速に進んだことで、エネルギー需給のバランスが変化し始めたのである。米国はこれまで最大のエネルギー輸入国だったが、近い将来、最大のエネルギー産出国となり、すべてのエネルギーを自給できる見込みであることが明らかとなった。
 米国がエネルギーを自給できるようになると、世界経済に極めて大きなインパクトをもたらすことになる。オイルショック以降、一貫して続いてきたドルの垂れ流しが止まり、米国の経常収支が劇的に改善する可能性が出てくる。その先に見えてくるのは、ドル高と米国製造業の劇的な復活である。

米国は近い将来石油を完全自給できるようになる
 国際エネルギー機関(IEA)は2012年11月、「世界エネルギー見通し」を発表し、2017年までに米国が石油・ガスの生産量で世界最大になるとの見解を明らかにした。シェールガスの開発が急ピッチで進み産出量が増大していることから、2035年までに米国はエネルギー輸入が不要になるとしている。

 もちろん米国は石油が自給できるからといってすべての輸入を停止するわけではない。米エネルギー省は、現在20%以上の開きがあるエネルギーの消費/産出ギャップを2035年までに10%以下に縮小させるとしている(図1)。石油の輸入は段階的に減らすものの、2020年以降は輸入量を一定レベルに維持し、輸出を徐々に増加させていく方針だ。


 シェールガス/シェールオイルは岩盤層に含まれる天然ガスや石油のこと。岩盤層から石油が取れることは知られていたが、コストが高く採算が合わないことからこれまで採掘されることはほとんどなかった。だが近年の原油価格の高騰に加え、米国で新しい採掘技術が相次いで開発されたことにより、シェールガス/シェールオイルを安価にかつ大量に採掘することが可能となってきたのである。

米国の経常収支が劇的に改善する可能性も
 シェールガス、シェールオイルの開発によって米国が実質的なエネルギー自給国になるインパクトは大きい。戦後の国際社会の枠組みは、米国が中東から安定的に石油を確保することを念頭に構築されたものであり、その枠組みが根底から覆る可能性が出てくるからである。

 マクロ経済の面では、米国の経常収支が大きく改善する可能性が見えてくる。米国は毎年約2000億ドル(約18兆円)にものぼる石油を輸入している。ニクソンショック以降、ドルと金の兌換が保障されなくなりドルの垂れ流しが続いてきた。米国の基幹産業が製造業から金融/サービス業へと変化し、製品の輸出が減少したことも大きく影響しているが、ドルに対する信用不安の要因のひとつが米国による大量の石油購入であることに変わりはない。

 図2は米国の輸出金額と貿易赤字の推移を示したものである。貿易赤字は2006年をピークに減少トレンドに転じているが、同じ時期を境にして、輸出品目の中における石油と化学製品の割合が増加してきている。今後本格的に石油の輸入減少と輸出増加が始まると、貿易収支は劇的に改善してる可能性が高い。
 ニクソンショック以降、一貫して続いてきたドル安の流れがとうとう終了し、長期にわたるドル高時代が幕を開けようとしているのかもしれない。


製造業の米国への回帰が始まっている
 米国の経常収支の改善は単に石油の輸入減少と輸出増加だけによるものではない。米国のエネルギー事業の改善を見越して、製造業への回帰が始まり、米国製品全体の競争力が高くなっているのである。

 昨年、米化学大手ダウ・ケミカルや英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどが相次いで大規模なエチレン工場を米国に建設すると発表した。また三菱ケミカル、旭化成など、日本の化学メーカー各社も米国での工場建設を検討しているという。
 化学メーカーが米国に工場を相次いで建設する理由は、エチレンの原料であるエタン価格がシェールガスの普及により半分以下に下落したからである。エチレンの製造コストのうち6割が原材料費(エタンの調達コスト)といわれている。米国におけるエチレン製造の価格競争力は世界でトップレベルになったのである。

 安価なエネルギー源の普及は、直接的なエネルギーコストだけでなく、それを用いて生産される素材などにも波及し、やがて製造業全体に及んでくる。
 もともと米国は世界最大の製造業の拠点だった国であり、基本的な工業インフラが整っている。ここに安価なエネルギー源とそれを背景にした素材が供給されることになると、米国の製造業全体が劇的に復活する可能性も見えてくるのだ。

株式市場は「変化」を織り込み始めている
 実は株式市場は、米国の産業構造の根本的な変化をすでに織り込み始めている。図3は米国の石油輸入依存度の推移とダウ平均株価を記載したものである。
 1990年以降、リーマンショックが発生する2008年まで石油の輸入依存度とダウ平均には明確な相関が見られた。だが2009年以降、ダウ平均は上昇に転じたにも関わらず、石油の依存度は低下の一途を辿っている。株価と石油の相関性が2009年以降消滅したのである。


 90年代の米国経済は製造業から金融業や知的サービス業への転換が劇的に進んだ時代であった。かつて米国のあちこちにあった工場はすべて中国などの海外に移転し、その代わりに高度なサービス業が発達した。だが米国経済が高い付加価値を維持できたのは、海外から輸入される豊富な石油があればこそであった。
 2000年代後半の石油価格の高騰やリーマンショックによるバブル崩壊は、石油依存経済の限界を市場が示したものであると考えることもできるのだ。

 昨年、本誌は石油価格の高騰について、3つの解決策のいずれかが市場で選択されるだろうと書いた(本誌記事「石油が見捨てられる日」参照)。一つは石油に代わる代替エネルギーの登場、もうひとつがイノベーション、最後がインフレである。結局のところ、採掘技術というイノベーションがきかっけとなり、既存の石油に代わる新しい石油(シェールオイル)が代替エネルギーとして登場し、諸問題を解決に導くことになりそうである。

シェールガスによって恩恵を受ける産業セクターが有望
 シェールガスがもたらす産業構造の転換については証券市場でも大きな話題となっており、一部ではシェールガス関連の銘柄が高騰している。
 だがシェールガスに関連して投資を行う場合には、シェールガスに直接関連する銘柄よりも、安価なエネルギーの恩恵を受ける業種に投資をする方が現実的である。今後油田やガス田の開発が進めば、さらに価格が低下することが見込まれ、シェールガスを生産する事業者はそれほど儲からないからである。

 先にも触れたダウケミカル(NYSE:DOW)は、シェールガスの普及によってコストダウンが期待される会社の一つだ。

 また天然ガスを使った発電プラントの増設が期待されており、タービン発電機の世界的メーカーであるGE(NYSE:GE)もその恩恵を受ける可能性が高い。

 意外なところではユニオンパシフィック鉄道(NYSE:UNP)といった鉄道銘柄も有望かもしれない。
 シェールガス/シェールオイルの採掘場は、比較的規模の小さいものが多い。既存の油田は大規模なものを集中して開発するが、シェールガス/シェールオイルの場合は、中小規模の油田が各地に分散するイメージだ。

 通常、原油の輸送はパイプラインを使って行われることが多い。鉄道に比べてコストが圧倒的に安いからである。だが油田が各地に分散するシェールガス/シェールオイルの場合には、すでにインフラが完成している鉄道輸送の方がメリットが大きいといわれている(Crude by Rail)。また油田開発のための資材運搬ニーズの高まりもあって、鉄道会社各社は、収益の増加が期待されている。

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