成長戦略に関する議論を霞ヶ関用語で解釈すると?

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 政府は2013年1月23日、安倍政権の最重要政策である成長戦略の具体策を検討する産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)の初会合を開催した。安倍政権の経済政策(アベノミクス)では、金融緩和の拡大、財政政策、成長戦略の3つを主要なテーマに掲げている。今後、持続的な経済成長を実現できるのかは、成長戦略の内容次第であり、その意味で産業競争力会議が果たす役割は大きい。

 だが一方で、民主党政権において予算削減に苦しめられた霞ヶ関の官僚にとっては、成長戦略の策定は予算と省益を拡大するまたとないチャンスになっている。各省とも自らの政策を成長戦略に盛り込もうと必死だ。安倍政権の成長戦略を霞ヶ関用語で読み解くと、どういう解釈になるのか、また最終的な成長戦略はどのような形になるのかについて考察してみた。

会議の流れをウラで仕切っているのは事務局だ
 安倍政権の成長戦略を担う組織は経済財政諮問会議と日本経済再生本部の2つである。経済財政諮問会議はマクロ経済をカバーする組織なので個別の政策は盛り込みにくい。日本経済再生本部とその政策提言組織である産業競争力会議は個別の政策を提言する場となっているので、官僚たちにとってはこの組織がまさに本丸ということになる。

 産業競争力会議は首相と6人の閣僚および10人の民間議員で構成されている。この会議の本来の役割は、成長戦略に関する大きな方向性を決め、トップダウンで各府省に具体的な政策を提言させた上で、その内容を精査することである。だが現実には、官僚が実施したい政策を会議に上げ、有識者や議員からの「お墨付きをもらう」場になりがちである。
 
 官僚が望む政策を通すためには、議論するためのたたき台を作成する事務局をどうコントロールするのかが重要なカギとなる。ここにどれだけ多くのスタッフを送り込めるのかで、各省の成長戦略への影響力が決まってくるのだ。
 産業競争力会議の事務局(日本経済再生本部の事務局を兼ねる)は46人体制。スタッフは12の府省から出向してきており、財務省、経済産業省、内閣府の3府省は次長を出している。基本的に彼等が指揮を取ることになるので、この3府省の影響力が強くなる。また全体の人数では経済産業省が12人と多いことから、同省の影響力がもっとも強いと考えてよいだろう。

 成長戦略のたたき台は、経済産業省の官僚が大枠を作成し、そこに各省が盛り込みたい内容を加える形で作成される可能性が高い。実際、提出されているたたき台は経済産業省の色彩が強いものとなっている。

民間議員にできることには限界がある
 官僚が作成したたたき台がそのまま採用されるのかどうかは民間議員の発言や行動にかかっている。各府省が実施する有識者の委員会では、基本的に省の意向と異なる人物は有識者として呼ばれないことが多い。だが首相がトップを務める会議の人選は官僚が100%コントールすることは不可能だ。事実、官僚側はあまり来て欲しくないと思っている竹中平蔵慶応大学教授(元経済財政担当相)がメンバーに入っている。

 もっとも民間の有識者にできることには限界がある。会合は月に数回、しかも1回あたり2時間程度しか確保されない。この中で、事務局が提示する内容をすべてチェックして、大きく方向転換させることは物理的にも精神的にもかなり困難である。また有識者の中には、事務局が提示する内容をそのまま追認してしまう人も少なくない。これまでも多くの会議が官邸で開かれたが、ほとんどが事務局が提示する内容に沿って議論が進んでいる。

成長戦略のたたき台には各省が確保したい予算項目がズラっと並ぶ
 では今回の産業競争力会議ではどのようなプランが検討されているのだろうか?図1は成長戦略として検討されている具体策を列挙したものである。
 成長戦略の主要項目として掲げられているのは、①市場創造プラン(新ターゲティング・ポリシー)、②産業再興プラン、③国際展開戦略の3つである。

 まずここで注意する必要があるのは、新ターゲティング・ポリシーという用語である。ターゲティング・ポリシーとは伝統的に経済産業省(旧通商産業省、戦前は商工省)が実施してきた政策であり、特定の産業分野を政府が戦略的に育成することを指す。このキーワードを見れば、成長戦略が経済産業省主導で作られていることがよく分かる。

 具体的な育成分野として列挙されているのは、健康、エネルギー、次世代インフラ、地域支援の4つである。これを霞ヶ関流に解釈すれば、「健康」とは医療介護分野への予算割り当てを指し、「エネルギー」は原発の再稼動、「次世代インフラ」は橋や道路に対する公共事業、「地域支援」は農業補助金と観光業支援策という解釈になる。それぞれ、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、農林水産省/国土交通省が予算を欲しがっているということである。

 ②の産業振興プランは基本的に近年弱体化が進んでいる日本の製造業を救済するための措置である。具体的には設備投資や研究開発に関する減税措置、2000億円規模の設備投資補助などが考えられる。もしかすると、シャープのような企業をこれで救済するプランが進んでいるかもしれない。これらには相当の財源が必要であり、通常の予算要求では簡単に獲得できるものではない。所管する経済産業省にとっては最大のチャンスと映っているはずだ。

 ③の国際展開戦略は、民主党政権時代に経済産業省や財務省が提唱していたものの焼き直しである。国際協力銀行を通じた海外進出企業への支援策、アニメなど日本のコンテンツを海外で販売するための支援策、インフラ輸出の支援策、資源外交の展開などが検討されていると考えられる。

 また、各項目に共通する事項として「総合科学技術会議との連携」という文言が入っている。これは研究開発助成を通じて文部科学省にも予算配分を行うということを意味している。

官僚主導に反発する一部の民間議員
 このように官僚主導の各論ありきの状態で議論がスタートすることに対して、一部の民間議員からは懸念の声が上がっている。
 コマツ会長の坂根正広氏は「いきなり具体的な施策の検討に入る前に、日本の産業に関わる現状について問題をどうとらえれば良いかという点から議論をスタートすべきだ」「なぜ企業ばかり優遇するのかという点についてまず国民にしっかりと説明し、理解を得た上で進めるべきではないか」というかなり的確な意見を述べている。

 竹中平蔵元経済財政担当相は、大きな枠組みとして「競争力議論における重点項目の確認」と「成長力を高めるための基本的な考え方」の2つをあげ、そこから具体的な施策に落とし込んでいくことを推奨している。また予算のムダ使いが起こらないよう、政策目標をあらかじめ設定し、実施した結果を検証することや、事務局主導で議論が進まないよう、事務局の作業に民間議員を関与させることも主張している。政策目標の設定と結果検証については、楽天社長の三木谷浩史氏も強く主張している。

 またローソン社長の新浪剛史氏は、世代間格差の解消や労働規制の改革を実施しないと成長戦略を描くことは不可能として、この分野での議論を強く求めている。ユニークなところでは、武田薬品工業社長の長谷川閑史氏のように、会議で決めたことについては官僚組織の抵抗を排してでも実行するという確約を求めている議員もいる。

 図2は独自色の強い提言を行っている民間議員の提言内容を簡単にまとめたものである。

ターゲティング・ポリシーそのものへの疑問も
 このほか、ターゲティング・ポリシーという考え方そのものに対する疑問の声も出ている。
 あらかじめ重点支援する分野を決めるというやり方は、官僚主導で政策が実施される日本ではあまり違和感のないものとして受け止められているが、実はこのやり方はもはやスタンダードなものとはいえなくなっている。

 米国ではこれまで数々のターゲティング・ポリシーを実施し、その成果については学術的にも検証されてきた。それによって得られた知見というのは、成熟段階に入った先進国では、成長する産業をあらかじめ政府が特定することは不可能というものであった。基本的な生活インフラにも事欠く途上国ならまだしも、先進国では次の世代にどんな技術が開花するのかは事前に予測することができないのである。
 無数の企業が市場で様々なチャレンジを行い、その結果としてGoogleやAppleは登場してくるのであって、政府が無名時代のGoogleを見つけ出して成長支援をすることなど不可能なのだ。

 このような先進国での産業支援は、基本的にイノベーションが引き起こされるような競争環境の整備に重点を置くべきであって、特定産業を支援する方法は馴染まないというのが近年の世界的コンセンサスなのである。楽天の三木谷氏は「特定企業・特定産業への安易な資金供給・救済はモラルハザードを起こす」と強く主張している。

 またコマツの坂根氏は分野を絞った支援策そのものについては是としながらも、「新規分野に過度な期待をかけても容易に国を支える規模には成長しない」とし、現実主義的な見地からの施策を求めている。また産業支援策が「競争力のなくなった企業の救済策につながらないよう注意する必要がある」とも付け加えている。

 本来であれば、各議員からの自由な意見を出し合った上で、まずは全体的な方向性を決め、それから各論に落とし込んでいくという進め方が望ましい。このようなプロセスで会議を進められるのかは、各民間議員の努力にもかかっているが、最終的には国民から選ばれた政治家に課された最大の責務といえる。
 産業競争力会議に参加する7人の国会議員に、果たしてその覚悟はあるのだろうか?それはこの会議が最終的に出してくる提言内容を見れば、おのずと明らかになるだろう。

【参考記事】
 「安倍政権の経済政策(アベノミクス)を検証する
 「インフレから身を守る方法
 「安倍相場は継続するのか?

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