安倍相場は継続するのか?

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 総選挙をきっかけに、これまで停滞していた日本株が突如として動き始めた。9000円前後をウロウロしていた日経平均株価は、日銀法改正も視野に入れるとの安倍自民党総裁の発言をきっかけに急上昇。選挙終了後には1万円の大台を超えた。日経平均と連動して為替も動き、総選挙前後の1ヶ月で80円から一気に84円まで円安が進んでいる。

 これだけ急激な日本株の上昇は、安倍政権における積極的な緩和策を期待した動きであり、ファンダメンタルを反映したものではない。日本株や為替に投資する海外の投資家の中では「Abe Trade」という言葉さえ出来上がっていた。だが一方で、株高が恒常的に続く条件が揃いつつあるのも事実だ。日本株は高値を維持することができるのか?またそのためには何が必要なのかについて検証した。

株高は実は世界的なトレンド
 足元の株高を牽引しているのは間違いなく為替である。11月の安倍氏の発言以降、日経平均と為替の動きは見事に一致している(図1)。安倍政権が発足すれば日銀に対する緩和圧力が強まり円安が進むとの期待が市場に広がった。輸出企業が多い日本では一般論として円安は株高要因であることから、為替の動きと連動して日経平均も上昇してきたということになる。

 確かにここ1ヶ月における日本株の上昇スピードには驚かされるが、株価の上昇そのものについては、実は全世界的なトレンドであり、日本株だけの現象とはいえない。
 図2はここ半年の主要各国の株価推移を示したものである。欧州債務危機は根本的な解決にはほど遠い状態だが、ギリシャやスペインに対する当面の支援策がまとまったことや、ECB(欧州中央銀行)が無制限の緩和策を打ち出したことなどから、市場には安心感が広がってきている。フランスの株価は20%、ドイツの株価25%も上昇しており、財政の崖に対する懸念から多少足踏みしている米国株の方がむしろ見劣りするほどのパフォーマンスであった。日本株の出遅れ感は大きく、何らかのイベントをきっかけに上昇する余地はあったといえる。


日本経済は米国頼みの構造から脱却できていない
 欧州不安の後退から市場にリスクマネーが戻りつつあったところに、緩和拡大に対する期待が重なって円安が進行、日本株も連動して上昇した。整理するとこのような動きということになるだろう。
 今回の株高が一時的な相場に終わらず恒常的なものになるためには、円安が維持されることに加えて、実質GDPのプラス成長を実現することが条件となる。このあたりの見込みはどう考えればよいのだろうか?

 結論から言うと日本には主導権を発揮できる部分は少なく、かなりの部分が米国経済頼みということになるだろう。
 これまでの円高は、欧州危機に対する不安から円が逃避先として選択されたことや、日銀が緩和策に消極的だったことが大きく影響している。欧州不安がとりあえず後退したことで、当面の円高圧力は薄れてきている。日銀が2%台の物価目標を導入すれば、少なくともその水準になるまでは緩和策を継続せざるを得ないため、さらに円売り圧力は強まってくるだろう。原発の停止によって原油の輸入が急増し、貿易赤字に転じたことも大きい。だがこれらは急激な円高を是正する要因にはなっても、実質GDPの成長に直接結びつくわけではない。

 実質GPDがプラス成長に転じるためには、緩和策の拡大による円安が、内需もしくは外需の拡大に結びかなければならない。リーマンショック後、各国は産業構造は大きく変化させてきたが、世界でもっとも変化していないのは実は日本である。日本は20年前から基本的な産業構造が変わっておらず、現在も完全な外需依存型のままである。資産効果に伴う内需拡大は日本では考えにくく、結局のところ輸出が拡大しないと経済は発展しないことになる。
 日本の製造業は基本的に北米市場に依存する構造となっており、いくら円安が進んでも、輸出を拡大できるかどうかは、米国経済の動向に影響を受けてしまうのだ(中国市場に期待する声が大きいのは事実だが、中国市場は現在失速が続いている。しかも中国向けに輸出した部品は最終製品として北米に出荷されることも多く、北米市場が回復しないと中国向け輸出も増加しない)。

バーナンキ議長は米国経済に自信を持っている?
 では米国経済は現在どのような状況になっているのだろうか?米国は政治的には「財政の崖」(大幅な歳出削減と減税措置の終了によって、景気が悪化する懸念のこと)問題を抱えており、先行きに対して不透明感が強いといわれている。株価もそれを反映してしばらく足踏み状態だ。
 FRBのバーナンキ議長は緩和策を延長し、失業率が6.5%を切るまでこれを継続する方針を明らかにしている。いわば「失業率ターゲット」ともいうべき異例の措置であり、これはインフレのリスクを伴う大変危険な賭けに見える。だが裏を返せばバーナンキ議長は米国経済の回復に自信を持っていると解釈することも可能だ。失業率6.5%という数値は、緩和のメドではなく、むしろ出口戦略をスタートさせるメドというわけである。実際、米国経済を状況を示す各種指標は良好な数値を示している。図3は米国の失業率、個人消費、住宅、産業の状況を示したグラフである。


 失業率は2010年の10%をピークに低下を続けており、すでに8%を切っている。このトレンドが継続すれば近い将来6.5%を切ることは十分に可能である。米国のGDPの7割を占める個人消費は、リーマンショックの一時的な落ち込みを除けば、一貫して好調な推移を見せている。感謝祭のセールも過去最大の売上げを記録した。

 最近回復傾向が顕著になっているのが住宅関連指数である。住宅着工件数はここ1年で急上昇した。これに合わせて住宅価格も上昇トレンドが始まっている。米国経済最大のアキレス腱であった住宅価格が上昇し始めたことで、不良債権処理が一気に進み、金融機関の体力が回復する可能性が高まってきた。唯一の懸念材料は製造業の動向である。非製造業のISM指数は堅調だが、欧州不安、中国経済の失速を反映し、製造業のISM指数は低下傾向が続いている。

 総合すると、製造業など一部に不安材料があるものの、旺盛な個人消費を背景に、米国経済は順調に回復してきているとみなすことができるだろう。FRBが出口戦略へのシフトを開始すれば、おそらく米国政府はドル高政策を採用するはずだ。このシナリオが進展するならば、日本は円安と株高の両方を享受することができるだろう。

公共事業の拡大はインフレをもたらす
 もっともよいシナリオばかりではない。財政の崖が予想よりも大きな影響を与える場合、欧州危機が再発する場合、中国経済が深刻な状況に陥る場合には、このシナリオは成立しない。
 さらによくないシナリオは、世界景気が減速する中、日本だけが財政出動を繰り返すという事態である。日本は2014年の消費税増税を控えており、政府、特に財務省としてはそれまでに何とかして景気を回復させなければならない。短期的にGDPの数値を上げるには、大規模な公共事業を実施する以外に方法はなく、すでに大型の補正予算が動き始めている。さらに来年度予算編成ではかなりの大盤振る舞いが予想される。

 本来財務省は財政均衡論者の集団だが、消費税の増税は国債増発に優先するだろう。また従来からの支持基盤で政権に復帰した自民党は、大規模な公共工事を実施する必要に迫られており、両者の思惑はとりあえず一致している。
 日銀が緩和策を拡大する中で、国債をさらに増発すれば、日銀による実質的なマネタイゼーションに繋がってくる。それがもたらすものは止めようのないインフレである。
 その時には望むと望まざるとに関わらず、物価は上昇し、円は限りなく安くなるだろう。だがそれは実質GDPの上昇を伴わない最悪の物価上昇である。もしそうなってしまったら日銀にも政府にも、もはや打つ手は残っていない。

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