楽天 vs AmazonそしてWalmart

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 米Amazonは2012年10月、電子書籍「Kindle」の日本国内での販売を開始した。これに先んじて楽天は2012年7月、同じく電子書籍の「Kobo」を国内市場に投入した。Amazonと楽天がいよいよ日本市場において本格的に戦うことになる。また楽天は2012年を「真の世界企業の幕開けの年」と位置付けており、Koboのサービスを軸にグローバル展開を一気に進めたい意向だ。
 楽天は国内のECサイトとしては断トツの地位を誇っているが、市場からの期待も高く1兆円近くの時価総額がある。投資家から見た場合、国内における楽天とAmazonの争いも重要だが、楽天が今後も高い成長を持続できるのかという点が最も気になるところだ。楽天を取り巻く状況を俯瞰してみた。

AmazonはWalmartになろうとしている?
 1997年5月、わずか13店舗、月額32万円の流通高で始まった楽天は、現在では年間流通総額1兆円を超す巨大ECサイトに成長した。楽天はもはやインターネット企業ではなく、生活の一部を構成するインフラ・ビジネスしての顔を持ち始めている。では年間流通総額が1兆円というのはどの程度の規模感なのだろうか?
 日本の全小売市場の規模は135兆円程度ある。楽天の2011年の流通総額は1兆2000億円なので、ざっと0.9%のシェアを持っていることになる。この数字がどの程度かということを理解するために米国市場と比較してみよう。米国の小売市場規模は約3.9兆ドル(約320兆円)と日本の2.4倍程度の大きさがある。Amazonの売上高は480億ドル(約4兆円)なのでAmazonのシェアは1.2%ということになる。この数字を見ると、楽天は米国のAmazonと同じレベルで普及が進んでいることになる(図1)。

 Amazonや楽天が今後、小売店としてどれだけ成長できるのかは、両社がどのような顧客を取り込んでいくのかにかかっている。米国においてAmazonは、全米最大の小売店であるWalmartを追いかける存在になると認識されている。
 Walmartは1969年の創業。アーカンソー州の田舎町からスタートした同社は驚異的な成長を見せ、現在では米国内で3500店舗以上を展開する超巨大企業に成長した。同社の売上げは何と4500億ドル(約37兆円)。ドイツやフランスの国家予算並みの規模となっており、同社と比べると日本の大手小売店など赤ん坊も同然である。

 図2はAmazonとWalmartの売上高推移を比較したグラフである。比較しやすいようにWalmartのグラフはAmazonよりも18年先にスライドさせてある(Amazonの売上げが16億ドルを突破したのは1998年、同じくWalmartが16億ドルを突破したのが1981年。両社の時間差は18年ある)。ネット企業であるAmazonはWalmartよりも圧倒的に早く成長したが、1996年以降はかつてのWalmartの成長をなぞるようなカーブになってきている。このグラフを見る限り、Amazonのネット企業としての急成長は終了し、Walmartのような巨大企業への道を歩み始めていると解釈することができる。


楽天がイオンと同じ道を辿ると成長は鈍化する?
 ではAmazonとWalmartの市場での評価はどうなっているのだろうか?図3は同じくAmazonとWalmartの時価総額の推移を示したグラフである。
 図2と同様、Walmartのグラフを18年先にスライドさせてある。両社の時価総額を比較してみると、乖離が生じていたのは2000年までであり、その後はAmazonとWalmartの時価総額は同じ動きを見せている。つまり2000年までの時期はAmazonがネット企業として急成長していた時期であり、将来の利益も先取りして評価されていたことがわかる。
 同社が巨大企業として認知されるにしたがって、評価の基準が正常化しWalmartに近づいてきた。そうだとするとAmazonにはまだまだ成長余地があり、Walmart並みの時価総額(21兆円)になる潜在力を秘めているということになる。


 では日本の楽天はどう考えればよいだろうか?楽天と小売大手のイオンの売上を比較したのが図4である(楽天とイオンには29年の時間差が存在しているため、イオンのグラフを29年先にスライドさせている)。Amazonと同様、楽天も初期には急成長を見せたが、イオンに追いついてからの様相がAmazonとは異なっている。イオンも楽天も売上げの伸びが鈍化しているのである。もし楽天がイオンと同様の伸びしか実現できなければ、向こう10年で大きな売上増は見込めないことになる。これは何を意味しているのだろうか?


大規模店舗を制限する政策がもたらしたもの
 それは日本と米国の大規模小売店のシェアが大きく関係している。図1に戻るが、米国の小売総額における大規模小売店のシェアは25%を越える(図の緑のカゴ)。だが日本では大規模小売店舗のシェアは10%程度に過ぎない。日本では小規模な店がたくさん存在しており、販売チャネルの合理化が進んでいないのだ。
 そうなる理由は政府の規制にある。日本には中小零細商店を保護するため、大規模小売店舗法(いわゆる大店法)という法律があり、大手企業の出店が制限されていたのだ。日本にだけコンビニという特殊な業態が広く普及しているのは、大手企業が大店法の規制を逃れるためやむなく選択した結果なのである。コンビニの店舗面積では規模のメリットが追求できず、コンビニは高い価格で商品を販売せざるを得ない。デフレにもかかわらず日本の生活必需品の物価が高いと感じるのはこのためである。

 話は戻ってここで重要なことは、ECサイトで商品を購入する層と大規模店舗で購入する層は重なっているということである。主に地域の零細店で商品を購入する層のネット利用率は高くないのだ。逆に考えれば、米国においてAmazonは理論的に小売全体の25%のシェアまで販売を伸ばすことができることになる(もちろん他社との競争に勝てばという前提条件が付くが)。同じ理屈でいくと、日本ではどんなにがんばっても全体の10%までしかシェアを伸ばせないということになる。
 このことは楽天の顧客層を見るとよりはっきりする。楽天の顧客層の約4割が40代以上で占められており、年齢層は幅広く分布している。一方地域別では約4割が関東在住となっている。つまり日本では、老若男女を問わず、首都圏エリアに住む人はECサイトを積極的に利用し、地方に住む人は年齢を問わず、ECサイトを利用していないということになる。地方在住者は、地域密着型の小規模な店舗を利用する割合が高いと考えられ、今後もその傾向が続く可能性が高い。大規模店舗を制限する政策は結果として、購買行動の地域差をもたらしたのである。

楽天成長のカギはやはりグローバル化
 規制緩和の動きを受けて大店法は2000年に廃止された。だがスーパーなどの大規模化はほとんど進んでいない。景気低迷と人口減少のダブルパンチで、小売大手はそれどころではない状況に追い込まれている。
 既存の大手小売店ですら取り込むことができなかった顧客層を楽天が獲得していくためには、多額の費用と労力が必要である。だがそれを実施してしまうと、従来の成長を維持することが難しくなる。社員に英語を強要してまでも、楽天がグローバル化を推し進める背景にはこのような切迫した事情があるのだ。
 
 冒頭にも述べたように楽天の現在の時価総額は約1兆円である。イオンの時価総額が1兆円を初めて突破したのは1996年だが、当時のイオンの売上げは約1.2兆円であり、楽天の現在の流通総額に近い数字となっている。
 イオンの株価はこれ以降伸び悩んでおり、現在の時価総額は7500億円前後である。市場が楽天を大規模小売店とみなしているならば、楽天が流通総額が増加させたとしても現在の株価の上値を追うことは難しいかもしれない。これを打開するためには、従来の成長ペースを維持できる急速な海外展開が必須となってくる。
 投資家にとって重要なのは、楽天の日本市場における動向ではなく、グローバル展開の行く末なのである。

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