福祉国家の投資パフォーマンスは高いのか?

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 長期的な視点で投資を行う場合、投資対象となっている国の政治体制は重要な判断材料である。特に安全保障政策と社会保障政策は、国家の存続や長期的発展に大きな影響を与える可能性がある。この両者についてきわめてユニークな政策を打ち出し続けているのが、北欧の王国スウェーデンである。
 スウェーデンは、1932年以降かなりの長期間にわたって社会民主労働党が政権を担っており、その間に平和主義(武装中立政策)と福祉国家というユニークなコンセプトをかかげ、独自の国家運営を行ってきた。最近ではこれに加えて、コントロールされた企業間競争という政策が加わり、新しいスウェーデン・モデルともいうべき独特の体系を形作っている。
 スウェーデン以外の北欧諸国やオランダなど、ゲルマン圏の国々の中にはスウェーデンに近いコンセプトを持つところが少なくない。中立政策、社会福祉、競争政策という一見矛盾するような項目を包含した同国の体制は、投資家にとって魅力的な存在なのだろうか?100年間の長期データをもとに検証した。

リアリズムに徹したシビアな国家
 日本ではなぜか北欧の政策に対する盲目的な賛美が多く見られ、かつては、同国の政策が福祉の理想像であるかのように語られた時代もあった。だが現実のスウェーデンは、冷徹なリアリズムに立脚した、かなりシビアな国である。

 中立と口にするのは簡単だが、他国の軍事的脅威を目の前にして、それを実行するのは並大抵のことではない。同国の中立政策は、徴兵制(2010年にようやく廃止)、独自の核開発、強力な軍需産業育成とセットで実現されてきたものであり、第二次大戦中は現実的選択としてナチスに協力している。実際、スウェーデンにおけるナチスの信奉者は多いといわれており、世界的に有名な家具メーカーである「イケア」の創業者も、かつてナチスの協力者であったことが明らかになっている。

 また手厚い福祉政策は優生学的な価値観の裏返しでもある。同国は1934年に断種法が制定され、1970年代まで身体障害者や知的障害者に対する強制的な不妊手術も行われてきた。

 企業に対しては、保護という観点はまったくなく、競争力のない企業は容赦なく市場から撤退させている。労働者についても企業は解雇自由であり、その代わり政府が責任を持って職業訓練を請け負う仕組みだ。解雇された労働者は十分な手当てをもらえるが、常に新しい技術を身に付ける努力が求められる。同国には「堕落して落ちぶれる」自由はないのである。
 実際、こうした政策が効果を発揮し、人口1000万人の小国ながら、通信機器メーカーのエリクソン、家具のイケア、ファッションのH&Mといった国際的な超優良企業を多数輩出している。現在はブランドの売却が進み、かつてほどの存在感はないが、自動車メーカーのボルボや軍需企業のサーブといった会社もある。こういった超優良企業が経済を牽引し、莫大な福祉予算を捻出するのである。

福祉レジームからみたスウェーデンのモデル
 なんといってもスウェーデン・モデルを特徴付けているのは社会保障政策である。同国の社会保障はすべて個人主義に立脚している。家族や企業といった共同体が極力排除されており、結婚などによって社会保障の給付に差がつかないよう工夫されている。個人の生活は最後まで保障される代わりに、常に自助努力が求められる。家族に囲まれて老人が幸せに過ごすというような一種の夢物語は同国にはない。
 このような福祉国家の形態は、福祉レジーム論(1990年にデンマークの社会学者エスピン=アンデルセンが提起した福祉国家の体制に関する学説)の中では、社会民主主義型に分類される。福祉レジーム論では、市場を使って福祉を実現しようという体制を自由主義型(米国など)、共同体を使って福祉を実現しようとする体制を保守主義型(フランス、イタリアなど)と定義している(図1)。

 福祉レジーム論は欧米の近代国家をモデルの前提にしているため、日本はどれにも類型化することができない。日本は福祉の多くを家族に依存しており、政府の役割は相対的に小さい。再分配機能があるにも関わらず所得格差が大きく貧困率も高い。この部分だけを見ると自由主義型に近いが、実際はそうでもない。自由主義型の場合には、社会保障の担い手として市場が期待されている。このため、最小限の規制と高い労働生産性が求めらるのだが、日本はその逆だからである。日本は政府機能の拡大という意味でも、市場機能の拡大という意味でも、両方において改善の余地がある。

米国を凌駕するスウェーデンの投資パフォーマンス
 ではスウェーデン型の経済モデルの投資パフォーマンスは高いのだろうか?図2は1910年から現在までのスウェーデンの株価推移である。比較のため日本と米国の株価も記載した。米国は覇権主義的な国家として、日本は国家消滅の危機を経験した国としてスウェーデンと対照的な国家といえるからだ。

 冒頭にも述べたようにスウェーデンは1932年以降、社会民主主義的な政策を実施している。このため株価は1930年を10とした時の相対値で示した。
 1930年以降の株価推移は米国と似ているが、1980年以降のスウェーデンのパフォーマンスはさらに高くなっている。日本は1950年から1960年にかけてのいわゆる高度成長期の株価上昇が著しく、両国よりもパフォーマンスが高いように見える。だがこのチャートは物価を考慮しない名目値であり、実際に株に投資して儲かるのかはインフレを考慮に入れる必要がある。

良好なパフォーマンスは福祉ではなく競争によってもたらされる
 図3は図2から物価の影響を排除した株価チャートである。各国の株価推移を消費者物価指数で修正し、1930年を300としたときの相対値で示している。
 物価を考慮すると株価はまるで違った様相を呈してくる。日本は戦時中のムチャな戦費調達(総額は国家予算の70倍以上)によって終戦までにかなりのインフレが進行していた。だが敗戦によって日本経済は完全に崩壊し、とうとうハイパーインフレが発生した。
 日本政府は強烈な金融引き締めと預金封鎖によってようやくインフレを沈めたが、この間に消費者物価指数は30倍近くまで上昇した。株価もインフレに合わせて上昇したが、敗戦によって経済が壊滅的な打撃を受けていたことなどから、物価に対してかなり出遅れた。ハイパーインフレが進行中の1940年代における実質的な株価は大幅なマイナスとなっている。株価が最終的に物価に追いつくのは1980年代になってからである。

 一方、スウェーデンと米国は第二次大戦の終了後から現在までの期間において、前半と後半でパフォーマンスが逆転している。前半は米国の方がパフォーマンスが高く、後半はスウェーデンの方がパフォーマンスが高い。
 前半において米国のパフォーマンスが高いのは、スウェーデンの方がインフレが激しかったからである。スウェーデンの経済は良好だったものの、手厚い社会保障政策による物価上昇が実質的な株式の上昇を抑制した。だが後半に両者が逆転するのは、スウェーデンが構造改革を行い企業の競争政策をスウェーデン・モデルにミックスさせはじめたからと考えられる。
 同国の構造改革は、法人税の引き下げなどの税制改革、インフレ目標の導入、財政健全化法の成立、年金制度改革など多岐にわたっている。以前のような高福祉の維持は難しくなっているが、リーマンショック後の株価の回復も順調であり、経済はまずまずの水準を維持しているといえる。

競争政策と福祉をミックスした制度は魅力的
 各国の株価を比較すると、次のようなことがわかる。まず第一に戦争の敗北は株価にとって最悪の結果をもたらすということである。日本は終戦後、高度成長を実現したが、敗戦のマイナスを完全に埋めるためにはバブル経済の時代まで待たなければならなかった。
 第二に純粋な社会民主主義的政策は株価に対してそれほどプラスの影響は与えないということである。スウェーデン株の高いパフォーマンスは、社会保障政策の見直しを行い競争政策をうまくミックスさせた90年代以降に実現している。現在では、競争政策の導入については多くの国でコンセンサスが得られている(日本、ギリシャ、イタリア、フランスなどではコンセンサスが得られていない)。これに政府主導の合理的な社会保障政策が導入され、社会の安定が実現できている国であれば、投資対象としてかなり魅力的な存在になるのかもしれない。

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