金本位制をめぐる冒険

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 ピークアウトしたかに思われた金価格が、最近また上昇傾向を強めている。

 2011年後半には1800ドルを突破したが、その後大幅に下落、今年の前半には1500ドルを割り込む寸前まで売り込まれた。だが欧州不安や米国の金融緩和を背景に値を上げ、再び1800ドルを狙う水準まで切り返している。一部では金はまだまだ上昇し、2000ドルを突破するとの見方もある。

 金価格の上昇がささやかれる背景には、ドルを基軸通貨とする現行の金融システムに対する根強い不信感がある。

 今回の米大統領選挙では、FRBの廃止や金本位制を唱えるリバータリアンのロン・ポール下院議員が共和党予備選で健闘し、金融システムへの不信が根強いことをあらためて印象付けた。また共和党の副大統領候補だったポール・ライアン氏も金本位制論者だ。

 金本位制が廃止されてから相当な年月が経過しており、金本位制は完全に過去のものとなっていたはずである。だが、米国に限らず一部の論者は金本位制への回帰を強く主張しており、一定の支持を得ているのも事実だ。果たして金本位制へ復活することは可能なのだろうか?またその時、金はどのくらい値上がりするのだろうか?

物価を考慮すると金はまだ最高値ではない
 金は市場空前の高値といわれている。確かに金本位制が完全崩壊し管理通貨制度が始まったニクソンショック当時の金価格は1オンスあたり43ドル(公定価格は35ドル)だったが、現在は1700ドル台となっており40倍も値上がりしている(図1の赤いグラフ)。


 だが物価の上昇を考慮すると、必ずしもそうとは言い切れない。経済が停滞しインフレが懸念された1970年代は、ニクソンショック直後ということもありドル不信がピークに達していた。この時の金価格を現在の水準に置き換えると1800ドル前後と今とほぼ同じ水準になる(図1の青いグラフ)。

 米ドルに対する不信感が高まると金価格が上昇するわけだが、グラフを見れば今回は2回目ということがわかる。少なくとも史上初めての事態というわけではない。1回目の金価格上昇は、ボルカーFRB議長の強硬な金融引き締めとドル高政策、レーガノミックスによる経済活性化によって改善し、金価格は急激に下落した。
 ドルの基軸通貨としての信任が高まったことにより、その後、金価格は2000年前半まで長期にわたって低価格で安定することになる。

 各国の通貨当局も金保有の必要性が薄くなり、90年代には金の放出が相次いだ。かつて金本位制を確立した本家本元の英国や、金に対する信任が厚かったスイス当局も保有量を減らしてきた。ニクソン・ショック当時の金保有量をキープしているのは米国とドイツくらいなものである(図2)。


金市場はドルの価値を認めている?
 FRBが実施している金融緩和策は、世界で初の試みであり、かつてない水準でマネーが増加している。一部ではドルが紙切れになるのは時間の問題であり、70年代のドル危機とはレベルが違うのだという意見もある。
 確かにこれほどのスピードでFRBがマネーを供給したことはなく、前代未聞の政策であることは間違いない。では金の市場はFRBの相次ぐ緩和策をどのように評価しているのだろうか?

 図3はFRBのマネタリーベースと金価格を同じチャートに記載したものである。マネタリーベースは中央銀行が実際に供給しているマネーの額のことを指す。マネーストック(マネーサプライ)は信用創造された後の金額だが、マネタリーベースは実際に存在するマネーのことである。

 チャートを見ると、確かにマネタリーベースは1970年以降、経済成長と物価に合わせておだやかな上昇を見せていたが、量的緩和策実施後は急激な勢いで増加していることが分かる。
 一方、金価格は必ずしもマネタリーベースに比例しているわけではない。1970年代はマネーの供給以上に金価格が上昇している。このことは、当時はドルに対する信任が弱くなり、金に対する需要が高まっていたことを示している。
 では現在はどうか?金価格はマネタリーベースの増加とほぼ比例しているのである。これは逆に考えれば、金価格は単純にマネーの増加を反映しているだけで、ドルに対する信用は低下していないと解釈することもできる。マネタリーベースからの乖離が大きい70年代の方が、ドル不信がひどかったというわけである。


終わりのない冒険
 本誌はドルの将来について決して楽観視しているわけではない。だが、ドルの過剰供給がすぐにドル崩壊に結びつくわけではないと言いたいだけである。これをふまえた上で、金本位制への移行を考えてみたい。

 金本位制へ回帰するといっても、実際に金を使って決済するという原理主義的な金本位制を実現することは不可能である。また金との交換レートを厳守してしまうと、金本位制のルール上、不況期に強烈な金融引き締めを行わざるを得なくなり、それこそ大量の餓死者を出す状況に陥ってしまう。
 現在の不況レベルですら景気対策を求める声が大きい中で、これを放置するというのは各国の政治情勢が許容しないであろう。
 したがって、仮に金本位制へ回帰するにしても、実際には金への兌換性を一定レートで保証するものの、その水準を随時見直していくようなシステムが導入されることになるだろう。またドルのみを兌換通貨とせず、主要通貨をバスケットさせるような仕組みも考案される可能性が高い(それがSDRになるのは分からないが・・・)。

 そうなると、かつての金ポンド本位制、あるいは金ドル本位制(ブレトン・ウッズ体制)を拡張し、市場連動性を高めたシステムになるだけであり、要するにドルと金の交換レートをいくらにするのかというだけの話となる。
 ニクソン・ショック後、ドルがもっとも安定していたのは金価格がボトムとなった2000年前後である。その後、金市場はドルの減価を認識し始め、量的緩和を行うたびに金価格を上昇させてきた。市場価格が正しいのだと仮定すると、マネタリーベースの増加と比例した価格となっている現在の金ドル交換レートは妥当性のある水準ということになる。

 問題は為替市場や国債市場がこれを許容するかどうかだ。もし許容しないのなら、許容する水準までドルは減価し、金価格は上昇することになる。その水準は誰にも分からない。結局は市場が決めることであり、その考え方は管理通貨制度そのものである。金本位制をめぐる冒険は結末に向かうことのない永遠のループみたいなものだ。

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