戦争と経済の真実-戦争にはどのくらいの経費がかかるのか?

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 中国の台頭や日米安保の弱体化にともなってアジア太平洋地域の地政学的状況は大きく変化しつつある。
 日本は太平洋戦争以降、自らが当事者となる戦争を長く経験していないため、戦争が経済にどのような影響を与えるのか、基本的な情報を持ち合わせていない。このため、「経済に行き詰ると戦争によって打開するしかない」といった、かなり乱暴でアバウトな議論がまかり通っている状態だ。
 日中韓の3国はすでに国境紛争ともいえる状態となっており、北朝鮮情勢なども考慮に入れると、今後日本が何らかの形で国際紛争に巻き込まれるリスクは増大している。いざという時にあわてないためにも、戦争が経済や市場に与える影響について、我々は正しく理解しておく必要がある。
 米国は現在でも継続的に戦争を実施しており(その良し悪しはともかくとして)、戦争と経済は密接に関係している。日本も戦前期までは、経済や市場を議論する際に戦争は避けて通れないテーマであった。戦前期の日本と現代の米国を例に、戦争が経済や市場に与える影響について冷静に分析してみよう。

戦争にはケタはずれの経費がかかる?
 そもそも戦争の遂行には、どの程度の費用がかかるのものなのだろうか?日本が経験した主な戦争である日清戦争、日露戦争、太平洋戦争を例にとってみよう。
 日清戦争の戦費は約2.3億円、日露戦争の戦費は約18億円であった。日清戦争開戦当時のGDP(当時はGNP)は13.4億円なので、戦費総額のGDP比は0.17倍である。日露戦争の開戦当事のGDPは約30億円なので、戦費総額のGDP比は0.6倍ということになる(図1)。


 これが太平洋戦争になるとケタが変わってくる。太平洋戦争の戦費総額は約1,900億円、日中戦争開戦時のGDPは228億円なので戦費のGDP比率は何と8.5倍である。国家予算に対する比率では72倍という途方もない数字である。現在の状況に当てはめると、4,000兆円もの戦費を投入した計算になる(戦争期間中は無理な戦費調達から急激にインフレが進んだため、実質ベースではこれよりも少なくなると思われる)。
 東郷平八郎の名言を引き合いに出すまでもなく、上記の3戦争は、すべて国家の存亡をかけた全面戦争といってよい。現代においてこのような戦争が勃発する可能性はかなり低いものの、いざ全面戦争となった場合に必要となる経費は、国家予算を大幅に超える巨額なものとなる。

相対的に低下している戦争のコスト
 それでは、第二次大戦後も多くの戦争を実施してきている現在の米国は、戦争にどの程度の費用をかけているのだろうか? 
 米国にとってもっとも負担の重い戦争であった第二次世界大戦の戦費総額は、約3,000億ドル。開戦当時のGDPは920億ドルなので、GDP比は3.2倍となる。絶対値としてはかなり大きいが、GDPの8倍を投入した日本と比べると相対的な負担はかなり軽いといえよう。
(ちなみに当時の購買力平価に基づいた米国のGDPは日本の約5倍であった。アメリカはドル換算で日本の2倍の戦費を投入した計算になる。常識的に考えてこれでは勝ち目がない)。
 第二次世界大戦後、米国は朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争という4つの大きな戦争を行っている。しかしその戦費負担は、すべてGDP比の15%以内に収まっている(図2)。戦争が数年にわたって実施されることを考えると、GDPへのインパクトはそれほど大きない。


 その理由としては、米国の覇権が確立し、全面的な戦争に直面するリスクが減ったこと、戦後の驚異的な経済成長によって、相対的な戦争コストが低下していることなどが考えられる。この点を考慮に入れると、戦費総額が1兆ドルを超え、終結までに7年を要したイラク戦争だが、第二次大戦当時と比較すれば、その負担は極めて軽い戦争であったことがわかる。

戦争は経済にどのようなインパクトを与えるか
 それでは、戦争の遂行が経済にどのような影響を与えるのか具体的に考えてみたい。
 先にも述べたように、戦争には巨額の経費が必要となるため、戦争の遂行は経済活動に相応のインパクトを与える。経済学の教科書的な考え方では、戦争の遂行は、GDPの構成要素のひとつである政府支出を増大させるため、その分、名目GDPが上昇することになる。戦争への出費が、さらなる消費や投資の拡大、生産性向上などにつながれば、実質GDPの継続的な上昇に結びつく。逆に、戦争への出費が、生産性向上や消費の拡大につながらなければ、名目GDPは上昇するものの、実質GDPの上昇にはつながらない。さらに、戦費の調達が無理な借金によるものであれば、金利の上昇や悪性のインフレをもたらすことになる。
 図3は戦前期の日本における実質GDPの推移と株価指数をグラフにしたものである。
 実質GDPを示す棒グラフのうち、戦争期間中は赤で表示している。また株価指数も併せて記載しているが、GDPとの比較を容易にするために対数表記にしている。
 グラフを見ると、どの戦争についても、戦争の遂行によって実質GDPが上昇していることがわかる。しかし、日本が直接当事者となった日清戦争、日露戦争、太平洋戦争では、戦争終了後に反動が起こり、GDPが低下している(赤の矢印)。特に太平洋戦争後のGDPの減少はすさまじいものがある。日清戦争、日露戦争の場合には、投入された戦費と名目GDPの増加分は近い水準だが、太平洋戦争については、GDPの増加分よりも戦費の方が圧倒的に大きい。
 一方、日本が直接戦争の当事者にはならず、経済的な恩恵だけを受けることができた第一次大戦や朝鮮戦争では、実質GDPの大幅な成長をもたらしている(グレーの矢印)。
 第一次大戦については、戦後の反動(1923年、1924年)が見られるものの、それまでの成長分が大きかったことから、トータルではプラス収支と考えてよいだろう。


自国が当事者でない戦争と平和の継続はマーケットに上昇をもたらす
 以上のことから、戦費を一定範囲内に抑えることができた戦争の場合には、経済成長に対して中立もしくはプラスとなり、限度を超えた戦費を投入した戦争は明らかにマイナスとなることが分かる。また自身が当事者とならない戦争については、経済成長にといって大幅なプラスになることが分かる。
 自身が当事者となる戦争の効率が悪いのは、兵員という直接生産に従事しない人員に資源を振り分けなければならないこと、不足する物資について大量に輸入しなければならないことなどがその原因と考えられる(両者ともGDPの成長に寄与しない)。
 株価については、市場が未成熟であった大正時代までは戦争に対する投機的な動きが目立つ。日露戦争時には当時の指標銘柄であった東京株式取引所の株価が2年間で6倍に上昇した。しかし、太平洋戦争では無理な戦争遂行が市場に嫌気され、国家による市場テコ入れにも関わらず株価は冴えなかった(太平洋戦争中の株価動向については当社レポート「太平洋戦争期の株価」(注:他サイトでの有料販売となります)を参照)。一方、特需となった朝鮮戦争時には株価は4年で4倍となる高騰を見せている。
 米国においても状況は似たようなものだ。戦争遂行中は、一定の経済成長を達成しているが、戦争終了後には多少の反動が見てとれる。ただし、米国は経済の基礎体力が日本よりも大きいため、相対的に戦争の影響は少ない。経済に悪影響を与えたといわれているベトナム戦争でも戦前期の日本と比べると相対的な影響は小さい。
 現在は戦争の経費が相対的に低下していることから、マーケットへの直接的な影響は限定的なものと考えてよいだろう。もっとも、中長期の株価推移については、朝鮮戦争期を除くと、戦争がない時期の方が明らかにパフォーマンスが良い。ベトナム戦争が長引き、インフレに悩まされた60年代から70年代にかけては、ダウ平均株価は横ばいが続いている。
 マーケットにとっては、自国に関係のない戦争の勃発か平和の継続が高いパフォーマンスをもたらすようだ。

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